《第535話》『逆転』
「い、いかがするべきですか鳴狐様!?」
「落ち着け。見たところ、ただの人間群ではないかえ? 余らの敵ではない」
徒党を組んだ人間達の行軍は、まっすぐこちらに向かってきていた。突然の事態に慌てる部下(陸に上がった二足歩行の魚みたいなヤツ)を、余は宥めてやる。
「持っているモノだって、金属の棒っキレみたいなものばかりじゃ。恐れるところなど、ありはせぬ」
「で、ですが、明らかに敵意を漲らせていますよ!?」
「じゃな。身の程知らずも甚だしい。先ほど余が、この怪物を倒す様を見ていなかったとでも言うのじゃろうか?」
「鳴狐様――人間社会ではそのような顔を、『どやがお』と言うようで候」
「だまらっしゃい!」
「――それはさておき。嫌な予感がします。ここは引くで候」
余は、我が狐耳を疑った。
「貴様までひよったのかえ!?」
「普段あり得ない状況であるからこそ、充分に警戒しておく必要があるで候! この状況を見て、むしろ攻めかかってくる人間達と言うのは明らかに――」
「はんっ! 例えどんな策であるとも、余の上を行くことなどできぬ! 人間ごとき相手に、何故背を見せねばならぬのじゃ!」
余は、大剣を振りかざし群れに突撃する。
舐めくさり、勘違い甚だしい弱者共に、力の差を思い知らせてくれる。
一方的な虐殺と共に、それは示される。そのはずだった。
――よもや、あの金属の棒にあれほどの力があるとは……ッ!




