《第534話》『狐に向けられた刃』
「フン、他愛ないのう」
余はようやく黙った超巨大熊を踏みつけ、ふっと息を吐く。目を潰し、片足を刎ね、腕をもぎ取り、心の臓を爆散させる。しかし、それでもなお余に立ち向かおうとする様は、見上げた根性を通り越して、ただうっとおしいだけだった。
「鳴狐様、お怪我はありませんで候?」
「あったりまえじゃ! 余を誰だと思うておる! 大妖狐、九尾の狐じゃぞ!」
「――その割に、着物の肩口が避けているようで候」
「これはちょっとこやつの爪にひっかけてしまっただけじゃ! 決して、当たってなどおらぬ! 決して、びっくらたまげて慌てている間に殴られたとか、そんなんじゃなのではないのじゃぞ! そしてじろじろ見るでないっ」
「わ、分かったで候、分かったで候っ!」
全く侍渺茫め、まるで顔が信じておらぬではないかえ!? ま、まあ、実際あまりにデカすぎて三滴――その、アレしたが、断じて苦戦などしておらぬのじゃ!
「――それにしても、こいつは一体なんなのじゃ? いきなり、我らの住まう山を突き崩そうとしおったから対処したが」
「てれびによると、よくわからない謎の襲撃者のようで候。何でも、『我らに従え』だの、なんだの。この大熊は、世界中にはなったそ奴らのしもべの一体のようで候」
「ハン! この程度の怪物を使役した程度で、随分と調子に乗っているようじゃのう? どこのどいつじゃ、その不届き者は」
「だから、謎の襲撃者で候」
「謎ってなんじゃ?」
「謎は謎で候」
「余は謎とは何なのかを聞いているのじゃぁっ!」
すると、侍渺茫は困ったような顔をしだす。全く、しょうがない奴め。
そんな、しもべのアホさにため息をついたその時だった。
この何十年、何百年と余らと関わりが無かったはずの一般人間が攻めてきたのは。




