《第532話》『淀んだ息吹』
『ごきげんよう諸君。我々の用意した怪物たちの大行進、楽しんでいただけたように思う』
巨大フクロウの襲撃から、1時間半ほど。緊急退避所のテレビに、あの男が映る。その声を聞くなり、退避所に避難してきたごく普通の一般市民も含め、全員が振り返った。
この地区に点在していた、この僕、樹那佐 夜貴の所属する平和維持継続室の面々も、事務所がつぶれたために皆と同じ場所にいる。――ただ、どこか避けられていると言うか、警戒されているような視線が落ち着かない。
『此度の地上への進行は、以前のミサイルと同様に警告である。我々の要求に応じぬ愚者への戒めとして、改めて放った災害なのだ』
「ふん、何が災害だ。これは人災と言うのだ。神でも気取っているつもりか?」
『すなわち、攻撃を受けている者達には、速やかな降伏を求む。さもなくば、さらなる不幸が諸君らの頭上に降り注ぐこととなろう』
テレビの中の男は、当然ながら呉葉の言葉には答える様子はない。
時間が経って落ち着いたためか、呉葉は大分元気になったように思える。だが、本人曰くまだまだ本調子ではないらしく、立ち歩く際には僕に付き添ってくれとお願いしてきた。
『だが、逆を言えば。我々に従うことを選択すれば、諸君らに対する攻撃はやめると宣言させてもらう。そして、既に我々の言葉に従い、服従の意を示した者達がいる』
退避所全体の空気が、少し変わった気がした。
『今回の事件に置いて、一切被害を受けていない地区があることを、世界中と情報でつながっている諸君らは理解していることだろう。諸君らの、賢明な再考を我々は望む』




