《第531話》『まるで首にかけられた縄を絞られていくかのよう』
ディア先輩の活躍により、彼女のいる地区周辺の被害拡大は収まった。巨大フクロウがあのまま羽ばたき続けていれば、地上全てが瓦礫の廃墟と化していたことは、想像に難くない。
だが、巨大な生命体――怪獣とも言うべきようなそれは、またもやロシアを除く、世界各地に出現していた。
いずれも、表が、裏が、それぞれで何らかの対処を行ってはいた。人々が想像していたよりは確実に被害は少なくなっている。
しかし、発生した傷跡はやはり大きく、そこらかしこが、石器時代へと逆戻りしたかのような惨状だった。この、絶望をそのまま景色に現したかのような光景に人々の心は荒み、そして謎の襲撃者に従うべきであると言いだす者も、当然増えてしまっている。
――だが、それ以上に。人々を混乱へと招いている事項があった。
本来、「平和維持継続室」のような、いわゆる「裏」の組織に所属している者と言うのは、表の世界には出てこない。
理由は単純明快。その力の解明は、ほとんど進んでいないから。度合をある程度図ることは出来ても、結局のところ、人間にはその根源が何であるかを、ほとんど理解できていないのだ。
世界の裏側を見ている人々にさえ、いまだ不明な点の多いそれ。表の世界へと明るみに出てしまえばどうなるか、容易に想像がつくだろう。
そして、此度の怪獣襲撃事件。見た目からして強大な存在に対処すべく、街のど真ん中で、ビル群から頭を突き出すそれら、都会の鉄筋林の上を羽ばたくそれらと戦うに当たり、特殊な僕らの世界を隠し通すのはほぼ不可能に近い。
平和維持継続室を含む、全ての組織が、パニックが起こらぬよう表から事態を隠せる手段くらいある。しかし、それを機能させられない程、今回の事件は大きく、そして急だった。
結果、人々は他者に疑惑を抱くようになる。生物と言うのは、正体の分からぬモノを恐怖するもの。それは人間とて例外ではなく、また「科学」と言う英知の結晶で解明では難しい故に、それはさらに加速する。
――曰く、怪獣を墜とせるほどの強大な力が、すぐ傍に隠れているのではないか。実は日ごろから近くで振るわれていて、隕石が地球を掠めるように、己も危険だったのではないか。
状況は、どんどんどんどん、悪くなって行く




