表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼嫁! 呉葉さん!  作者: /黒
第二章
53/1022

《第五十二話》『真に強きモノ』

「――もういい加減、諦めたらどうだ?」

「くっ――誰が……ッ」


 と、啖呵を切りつつも、妾は膝をつく。奴の力は、明らかにこちらを凌駕していた。

 自分でも、己の力が衰えつつあるというのは分かっていた。なぜならば、「鬼」という種族は怨念によって発生し、その闇に比例して力が増すのだから。

 自分は世の平定のために君臨している。そう言いながらも、その力の根源は根深い根源である。それでもなおおとなしくいられたのは、その記憶がなかったためだ。記憶なきまま暴れ、そうして、その虚しさに気が付き、己に使命を課した。

 ――そう、妾は覚えてもいないのに、無性に世界が呪わしかった。そして、魂に刻まれた暗黒を霧散させていったのは、他でもない……、


「《怨獄弾》」

「――っ」


 放たれた鬼火の塊を、妾は真正面から受け止めようと試みる。その重く、暗い漆黒の炎は、怒りと怨恨の塊の一部である。そんな地獄の怨嗟が、もしおかしな場所へと飛んで行ってしまえば――妾と夜貴の守ろうとしているモノがどうなるか、分かったモノではない。


「貴様が腐っても妾であるというのなら分かるだろう?」

「…………」

「この世界は負の感情に満たされている。そして、それを真に魂で知る者がいなければ、容易く世の均衡を乱してしまうということを」

「…………」

「だから妾には。否、妾らには、闇以外のモノは要らぬのだ。審判を下す者は、万物に平等でなくてはならない。強すぎる、毒にもなりかねない光を律することができるのは闇に他ならぬのだから」


 ――そう、だな。判決を下す立場と言うのは、常に均等に目を向けていなければならない。

 しかし、だ。よくよく考えてみれば、妾の思いこんでいたそれは、とてつもなく奇妙ではないだろうか。


「フ――ッ」

「む――? 己の使命を、理解しなおしたか?」

「いや、なに。昔の妾であるお前の顔が――――随分と、羨ましそうにこちらを見つめていると思ってな?」

「――? 何を言っている?」

「ひとつ、教えてやろう。過去の幻影よ」

「――っ!?」


 嗚呼、なんと馬鹿馬鹿しい。嘆かわしい。そして何よりくだらない。今の妾から見れば、昔の妾の何とちっぽけなことか。


「思い上がりも甚だしいわッッ!!」


 何が使命だ。何が審判だ。今となっては鼻で笑えるようなゴミのような想いと共に、妾は巨大な暗黒の炎をこの手で握りつぶした。


 それに驚愕する《最強の妖怪》の顔と言ったら、何と滑稽なことか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ