《第528話》『美酒』
アタシは元々、取り立てて平和のために尽くしたいとか、誰かの役に立ちたいとか、そう言う想いは持っていない。
そう言うのを持っているのは、狼山とかコーハイ。アイツらは、いつも誰かのために戦っている。明確に、平和維持継続室に属する理由があるのだ。
だが、アタシというヤツは、平和とか言うモノは別にどうでもいいと思っている。平和維持継続室に入ったのだって、合法的に気に入らない奴をぶっ飛ばせて、しかも人間世界で物品の取引が円滑に行えるお金が貰えるから。
はっきり言って、自分のため。自分の欲望をかなえるためだけに、この仕事をしている。だから、命張ってまで戦う理由なんて、どこにもありやしない。気に入らない奴が自分より強ければ、気に入らなくはあるが、逃げればいい。
「う、く、ぅ――マイッタ、ね。ズタボロじゃないか。しかも、生き埋めと来た。……丁度運よくスペースができて、そこにいるってか」
実際、今対面しているのはすさまじくヤバいヤツ。あのナリで軽くひねれれるような、大きいだけの軽い風船オバケでは決してない。実際、こうもあっさりここまで追い詰められるのは、魔界でオヤジと喧嘩して以来だ。とっくに仲直りしたけど。
だから、正直逃げようかなとも思った。魔界に戻るなり、どっか遠くで飲んだくれるなり。今の仲間をかつての虚像にして、欲望赴くまま、やりたいように。
「――いてっ! あん? なんか隙間から落ちてきた……? 缶ビール? ああ、いや、第三のビールだね。足元がスーパーだったり何だったりしたのかい――?」
けど、アタシは直感的に知っている。ただ、なんとなくわかる。それがどれだけクソッたれなのか。つまらないか。
大志を持っているわけではない。むしろ、持っていないからこそ、直感的に理解できる。そしてその勘は、きっと間違いではないだろう。
――安酒を、高級な酒より美味く飲める方法を知ってるかい?
「――全く、どうして税金上げようとするのかねぇ」
限られたスペースの中で、何とか栓を開ける。ぷしゅっと弾ける小気味の良い音は、いつだって大好きだ。
衝撃で潰れてなくて、ラッキーだったよ――ッ!




