《第526話》『飲まなきゃやってらんないね』
「オラァッッ!!」
アタシは、巨大フクロウ向けて刀を振るった。この世界では決して作ることのできない、「零極刀」の刃が羽毛を斬り裂いた。
――しかし、結果は斬られた羽根の端が舞い散るのみ。傷を負った様子もなく、相変わらず悠然と、そいつは飛び続けている。
続けて、刀から一瞬手を離し、懐に仕舞っていた二丁拳銃の弾を全弾ぶち込む。
合計42発。普通の妖怪・怪物・悪魔の類なら、蜂の巣となっているであろうが、灰色の毛並みに飲みこまれた退魔弾は、奈落の底に落とした石のように、何の反応も返さなかった。
「うーわ、なんだこれ、なんだこれ」
フクロウの超巨体が、一瞬にして遠ざかる。何が起こったのかとも思ったが、何のことは無い。ただ、空の彼方に飛翔しただけだ。
瞬きだけで物理的に人を圧殺できそうな相貌は、アタシをじっと見つめている。その無感情な瞳に、思わず背筋が凍った。
「こ、こっちは跳べはしても飛べはしないんだ! 卑怯じゃないかい!」
そんな文句を、聞き入れてくれる相手では当然無い。空高く舞い上がったフクロウが、こちらへと向かって猛接近。今まで体感したことのないパワーで、蹴り飛ばしてくれた。
「――っ、ぐ、く……、」
したたかに背中をアスファルトの道路に打ち付け、瓦礫と砂ぼこりが周囲に飛散する。
護符が無ければ、間違いなく即死していただろう。蹴りの直撃を零極刀で受け流したつもりでも、あまりに高い攻撃力のせいで逸らし切れない。
フクロウはどうやら、完全にアタシに狙いをつけたようで、真上で羽ばたいている。
自分が蟻となって、象と戦っている気分になって来た。足元を這うあの昆虫には、世界はきっとこんな奴らだらけなのだろうと思うと、少し同情できる気がした。
――有体に言って、恐ろしく絶望的だった。
「あー、お酒欲しくなってきた――」




