《第520話》『死より遣わされし者』
「っ、何かと思えば、人間とガキじゃねぇか!」
「ああ、その通りだ。ここは、人間の生きる土地だ。そして、世間の常識と言うレールから外れた事柄を処理する、平和維持継続室の事務所の一つでもある」
「それが、どうしたよ――ッ!」
冀羅は床を割り砕くほどの強さで蹴り、狼山先輩へと突撃――できなかった。
「な、なん――っ!?」
「出てって」
まるで蜘蛛の巣に絡めとられた虫のように、長身の男の姿が固まっている。
これは、遊ちゃんの力だ。目に見えない程の細い糸を操り、敵を翻弄する。
「遊にフライングされたが、そう言う事だ。平和を乱させるつもりはない。お前のような、いかにも無法者チックな輩には、早々に退場してもらいたいって言ってんだ」
「ケッ、ちょっと動きを止めたくらいでエラそうによォ!」
ブツッ、ブツッという音と共に、冀羅が再び動き始めた。遊ちゃんの操る糸は、ピアノ線よりもずっと強固である。故に、それを力づくで破る、何て言うのは早々できない芸当だが――それを、この妖怪? は、容易く成してしまった。
「オラァッ!」
拘束を抜けた冀羅が、狼山先輩へと仕掛ける。目にもとまらぬ速度で、幾多の蹴りを繰り出しながら。
「っ、何ィ――?」
「フッ――」
だが、どれ一つとして、狼山先輩には当たっていないようだった。
「なん、だ――? まるで、虚空に吸い込まれるように俺の蹴りが……ッ!?」
「それから、もう一つ」
「ギッ!?」
一発の銃声。僕の目では到底負えない動きをしていた冀羅が、短く悲鳴を上げて後ずさった。
「俺達は、仲間に危害を加えるヤツには容赦しない」




