《第五十一話》『鬼神の眼力』
「大丈夫ですか、穹島先生!」
幻術呉葉と現実呉葉が睨みあっている間、家屋の残骸から僕と藍妃は穹島先生を助け出す。彼は、青い顔をしてぐったりとしていた。
「う、うごご――吐きそう……」
「い、命には別条なさそう、か、な――?」
「手加減したんだね――」
本気であの呉葉に殴られれば、どてっぱらに穴が開くだけでは済まないだろう。二人の拳がぶつかっただけで周囲に被害があったことからも、それは明らかである。
「わ、儂が、手に入れた情報では――樹那佐が、あの鬼神に辛くも勝利した、と……」
「――勝てるわけ、無いじゃないですか。彼女は僕が、僕達が知る限り《最強の妖怪》なんですよ?」
僕が呉葉へと差し向けられたのは、組織の宣戦布告の意味合いが強いというのが彼女の読みだ。
鬼神『狂鬼姫』は、自ら何かをすることはない。それはきっと、組織もわかっていた。
そして彼女はとても影響力の強い鬼であり、そのまま戦力を総動員して攻め入れば、大規模な戦争になってしまう。だからこそ、人の世に害をなせば名文が作れると踏んだのだろう、と呉葉は読んだのだ。対した力を持たない「僕」を「ただの一般人」が迷い込んだとして殺させれば、それは小さくとも理由になる。
「い、いろいろ言いたいことはあるけどさ、夜貴が意識を落とせば――あの鬼神は消えるんじゃないの……?」
「多分、無理じゃないかな――。きっと、こっちを見ていないようでずっと僕らを見てる。それに及ぼうとすれば、一瞬のうちに止められる」
「で、でも、今は本物の鬼神が相手をしてるじゃない――!? それに、穹島先生のところに来ることもできて……」
「動けたのは、その行動が『狂鬼姫』にとって取るに足らないものだからだよ。僕にはよくわかる。それが可能な程、過去の呉葉は強力な鬼なんだ。それに――」
「――?」
「信じたくはないけど、今も昔も呉葉の目は確かだ。そんな昔の呉葉が、今の呉葉は勝てないと言った――多分、時間稼ぎは出来ても、きっと、その通りなのかもしれない」




