《第518話》『暴虐のエキゾーストノート』
「ぐ、げふっ――」
「呉葉! 呉葉ッ!」
目や鼻から血を垂らす呉葉の身体を抱き上げる。あれほどの力を発揮したはずのその身体は、相変わらず小さい。
「次元の裂け目、で、傘を作、り、そこからミサイルを撃、墜させ、る、攻撃を放ってやったの、だ――名付けて、『鬼愛の袖衣』……ッ」
「か、カッコつけてる場合じゃないよ――っ! 無茶しちゃって……っ」
「人には、脳ミソが溶けかかってもカッコつけねばならないこと、が、あるの、だ――っ」
あれほどの力を発揮するのに、どれだけの負荷がかかっただろう。僕には到底想像もつかないが、少なくとも、僕の知る限り最も強者たる呉葉が倒れたのだ。
だが、そのかいあってか、僕らだけでなく辺り一帯も平穏無事に済んだ。あまりこう言う無茶はしてほしくないのは本心だが、本気で助かったことにも、礼を尽くしきれない。
「しかし、次来たらマズい、ね。流石に、アタシらじゃ呉葉ちんみたいにこの辺り一帯全てを守れるほどのことは出来ない」
「そいつは、相手が今の攻撃がどこまで本気だったかだろうな。向こうが当てる気で来てたなら、混乱していてもおかしくはねぇが」
「そりゃあ、この結果は予想通りに決まってんだろうがよォ! 狂鬼姫当ての挑戦状なんだからなァッ!」
突如、空気が割れんばかりの怒声と共に、建物の壁が打ち破られた。
「ハハハハァハッ! ざまァねぇな、狂気鬼のババァ!」
湧き上がる粉塵。僕は思わず咳き込んでしまう。
突然の襲撃者。僕は呉葉の身を庇い、背中に風圧を浴びた。その中に混じるものは、力強い妖気の余波と、燃え滾る炎の熱さ。
程なくして。風邪に吹き飛ばされるように、視界を覆っていたモノが散る。
そうして現れたのは――古臭い、黒のパンクスーツの男だった。




