《第517話》『ミサイルの思惑』
「おいおい、嘘だろう――?」
不自然な動きで方向を変えたミサイルは、噴射口から炎を噴きだしながら再びその先端を僕らの方へと向けた。
「ちィ――っ!」
呉葉が、再びミサイルの先にある空間を切り裂く。再度、推進力を持った爆弾は飲みこまれ――、
なかった。
「なんだと――ッ!?」
ミサイルはまたもや軌道を変える。今度は裂け目へと飲み込まれる前にガクンと方向を変え、何度となくその矛先をこちらへと向けてくる。
それはまるで、意思を持っているかのよう。例えどのような手段を用いようとも地上を火の海に変え、放射能を巻き散らかさんとしている邪悪な思惑が見えた。
「っ、あんなモン、空中で破壊して――!」
「やめろ! あんな低空で爆破すれば、地上に死の灰が降り注いじまう!」
「じゃあどうしろってんだい!」
「くぅ――ッ、こうなれ、ば……ッ!」
呉葉の全身から、こちらの身がチリ付くほどの強烈な妖気が放たれる。
「ぬォああああああああああああああああああああああァァ――ッッ!!」
刹那。空が全て、時空の裂け目に覆いつくされた。
「っ、なるほど、着弾地点全てを覆っちまえば――!」
「ぐ、く、ぅ、ぐぅううううううううううううううううゥゥ――ッッ!!」
数秒遅れて、空の彼方で爆音が響いた。それを合図とするかのように、もはや穴と呼んでもよのか分からぬ程巨大な空間の裂け目が、空へと上昇していく。
――すさまじい妖気の迸りを近くで感じながら、およそ10分程。呉葉の作り上げた次元の裂け目が、縮小しはじめた。
それが明けると、空には雲一つない青空が広がっていた。
「っ、やったの? くれ、は――?」
呉葉に状況を問おうとしたその瞬間。白く小さな身体が倒れ行くのを、僕は目にした。




