《第514話》『魔改造』
「っ、何モンだてめぇッ!?」
俺は振り返りつつ前に飛ぶ。全く気配を感じなかった。
「アヤシイ者ではありマセン。落ち着いてクダサイ」
「気配消して後ろに立つアヤシクないヤツがいるかよ――ッ!」
「ア、それはワタシの趣味なのでお気にナサラズ」
そこに立っていたのは、頭から足元まで、顔すらも真っ黒なローブに身を包んだヤツだった。高めの声からするに、女だとは思うが――身長は俺より高い。
そしてその長身のせいか、はたまた別の何かによるモノなのか、迫ってくる壁のような圧迫感。それにもかかわらず、ここまで気配を察せなかったとは――、
「アナタ、何かお悩みがあるヨウデ」
「っ、何だよ、あんた。あんたに、俺の何が分かるって言うんだよ?」
「ワカリマスとも。アナタのその浮かない表情を見れば、一目瞭然」
そいつは、ゆっくりと地面を滑るようにこちらに寄ってくる。
「それはずばり、己の力の至らなさデショウ? あらゆる力、あらゆる面で足りず、それが故に相手を納得させることすらままならナイ」
「だから何だって言うんだ! あんたには関係無いだろうが!」
苛立ち以上に。何かそら恐ろしいモノの気配を感じて、俺は蹴りを繰り出す。
――しかし、命中したはずのそれは空を切った。当たる感触すらない。アフターファイアも発生しない。
「ワタシなら、アナタの助けになれます。力を、与えてあげられマス」
そればかりか、名前すら名乗らぬそいつは、一瞬にして俺との距離を詰めてくる。まるで、最初からそこにいたかのように。
「アナタの全てを強化し、アナタの全てを無敵、無敗にする。アナタの思う強大な相手すらも、たった一撃で納得させる」
「お、俺は――っ」
「ホシクは、ありマセンカ?」
「俺は――っ、…………」
目元だけが開いたローブ。しかし、そこから覗くは、深淵に浮かんだ光。
その瞳は、俺の心を揺さぶる。まるで打ち震える不満、その震動を増幅させるかのように。




