《第513話》『若いことが理由、だとは思いたくない』
「くそっ、ババァの癖に――! くそっ……」
狂鬼姫のババァに敗れた俺は、逃げるようにヤツのつくった異空間結界の中を抜け、洞穴の中へと出る。すると、今までどこか幻想的だった空は、瞬く間に暗がりの岩壁と化した。
狂鬼姫が作りだした、小さな世界ともいうべき場所。それが、あのババァがかつて住処にしていた屋敷のある場所でもある。
そんな、とんでもないことを平然とやるあの大妖怪。「無敗・無敵の冀羅」と少し前は自称していた俺だが、見た瞬間それに挑むことが、いかに愚かなことか。流石の俺だって、すぐに理解できた。
しかし、だ。一度しもべたる妖怪たちを勝手に突き放したクセに、どうして戻ってきて、今更指図しようと言うのか。それが、俺には気に食わなかった。口ではああは言っていたが、こうもあっさりだと怪しいものだ。
だから、俺は一発でもいいから殴って、文句の一つでも言ってやるつもりだったのだ。どう返されようが知ったことじゃない。あまりに自分勝手が過ぎやしないか、と一喝しようとした。
俺は、解散宣言の際にはいなかった。けれども、俺に対してよくしてくれた兄貴分やダチの中には、あの鬼神を慕い、下に付いていたヤツがいる。あの時、あいつらがどれだけ沈んだ表情と共に、不安な気持ちを抱いていたか。
――だが、一発もまともに入らず、大衆の前で無様な姿を見せるに至ってしまった。
あの場を去る際、知り合いが掛けようとしていた声も無視し、今ここに居る。
だいたい、あいつらもあいつらだ。何を素直に、大昔の化石ババァの話を聞いているのか。少しは、怒りだとか、そう言うモノは感じないのだろうか。
どうして、何も――、
「そこのアナタ。何やら怒り心頭のようデスガ、いかがしたのデショウ?」
「っ!?」
突然後ろからかけられた声。俺のエンジンは、不具合を起こしたかのように一瞬跳ねた。




