《第五十話》『鬼神の誇り。強さ』
「ふ、む――」
「…………」
妾と妾が向かい合う。目の前の夜貴から引きずりだされたそれは、ぶつけた拳をぷらぷらと振りながら、値踏みするような目線をこちらへと向けてくる。
その瞳はただただひたすら乾いていて。冷淡ではなく、乾いていて。活力と言うモノがあまり感じられない。――夜貴と出会った当初の妾は、こんな目をしていたのか。
「弱い、な」
「――っ」
そんな、過去の妾が。今の妾を、そう称した。
「会話から察するに、貴様は未来の妾なのだろう? であるならば、その夜貴とか言う人間と暮らすつまらぬ数年の間に、そこまでひよってしまったことになる」
「――約1年だ。妾の誇りである時間を、そのように揶揄するな」
「誇り? 鬼神の誇りは、絶対的な力だ。それを失った今の貴様は、ただそれに縋りつき言い訳をするしかないだけだろう?」
「愚弄するな、と、言っている――ッ」
妾はおのれの顔をこれほどにまでに憎しみを込めて殴ろうと思ったことはない。いかに昔の自分自身とは言え、妾と夜貴のかけがえのない時間を嘲ることは許さない。許されない。
「だから妾は、貴様はひよったと言ったのだ」
「――っ! く、この……ッ」
だが、再び振りかざした拳は容易く止められてしまう。だが、こんなモノは想定の内だ。
「ならば――ッ、これはどう、だァ……ッ!」
「む――っ」
拳の先に妖力を集中。鬼火を拡散させる。
放たれたエネルギーは、存在する全てを焼き尽くす地獄の業火。この炎を至近で浴びて、無事に済む者はいない。
――妾以外ならば。
「貴様が妾に勝てない理由を教えてやろう」
「――ッ!? ぐ、あ……ッ!」
妾のはなった炎が、奴の妖力に絡めとられ、掌握された。そしてそれはそのまま、この身に襲い掛かり肌を焼いてくる。
「それは妾が、如何なることであろうと心を乱さないからだ」




