《第508話》『時の王者』
精神的ダメージで反応が遅れた。冀羅のとび膝蹴りを、妾は両掌で受け止める。
重い。ドカンと、腰から乗ったような重量感あるパワーが伝わってくる。
「俺様のアフターファイアに炙られてな!」
「――っ!」
受け止められた反動のクッションを利用して、ふわりと冀羅が着地――と思った瞬間、妾の掌が爆発するように燃え上がる。
「どりゃァあァッ!!」
後ろ回し蹴り。足の底をまた腕で受け止めるが、直後先ほどと同じくまた炎が弾ける。
反動とばねを利用し逆回転。膝から深く入れ込むような回し蹴り。
重く鋭い一撃一撃の割に、思いの外切り返しの素早い攻撃。それに加えて、いちいち上がる炎がうっとおしく結構熱い。――やるじゃないか若造。
だが――ッ!
「どうしたどうした! 時代遅れの鬼神サンよ、」
「まだ、甘いな」
「な――っ!?」
抉りこむような回し蹴りを防いだ後に襲い掛かってきた、頭上からつま先より向かってくる逆サマーソルトキック。妾はそのままそれを受け止めることはせず、手の甲で横に払ってやる。
一度バランスを崩した時点で決した。そのままの流れで、ガラ空きの背中に掌打を見舞う。
――憐れ冀羅は、土の地面にこちらに尻を向けながらうつぶせに墜落した。
「ご、げほ――ッ」
「呉葉様、お見事ですぞ――!」
「それを言う前にお前が防がんか――っ!」
「い、いえ、私はあなた様の力を改めて見せつけることが、集団にとっては必要と考えたまでで」
表とは全く異なる価値基準の世界である故、ド正論ではあるが、少々釈然としない。というか、零坐だけでなく他の誰かも動かぬか!? 妾悲しいぞ!
――で、それはひとまず置いておき、だ。
「さあ若造。来れば来るだけ大地の味を確認させてやるが、どうする?」
「ぐ、くっ――クソったれ、がぁ……っ」
冀羅は立ち上がると、妾を睨み付けてくる。だが、先ほどよりも明らかに戦意は失われているようだ。
「チクショウ――ッッ!!」
それだけ怒鳴り付けていくと、冀羅は爆炎を巻き散らかしてその場から消えた。




