《第507話》『漆黒のサラブレッド』
「――誰だあいつは?」
妾は隣で控えていた零坐に、声を上げたヤツのことを訪ねる。
「あやつは、『キラ』と言う者です」
「何? デス〇ートか何かか?」
「普段よく使われる字とは異なる方の『キボウ』の『冀』に、『ラセン』の『羅』と書くようです」
「つまり、『冀羅』――よもや、妖怪にもキラキラネームの時代が来るとは」
「――『きら』なだけに、ですか?」
「お前が冗談を言うとは珍しいな」
「こらテメェら! 何をコソコソ言ってやがんだッ!」
吼える吼える、黄金の炎のような金髪に時代遅れ臭い黒のパンクスーツの大男が吼える。至る所に下げられたチェーンアクセサリーの類。目は狼のごとく鋭さで、天に瞬く星のように赤く煌めき、獰猛な威圧を隠しもしない。
「何でもない。しかし若造、『ババア』とは言ってくれるな? これでも、まだ1000歳だぞ?」
「どう考えても年寄りだろうがッ! 経年劣化が頭にまで及んでんじゃねーのか!」
「――狂鬼……呉葉様、何故若干嬉しそうなのです?」
「いやだって、年寄り扱いされるのが珍しくって――いつもいつも、どいつもこいつガキだのチビだの……」
「とーにーかーくーだ! いつまでも古臭ェエキゾーストノート垂れ流してんじゃねぇぞチビババア!」
「おぐぅっ!?」
「てめぇの時代は終わったんだ! これからは俺様の時代だぜ!」
冀羅は、最後に妾のハートをブレイクする言葉を吐いた。結局、妾はそう言われてしまう運命だとでも言うのだろうか。
それで隙を作ったつもりはないのだろうが――口の悪い若造は、声を張らねば言葉がはっきり聞こえないであろう位置から、一気に飛び掛かってきた。




