《第504話》『新生国家、その力の正体とは』
「アンタ、いっつもどこから入ってくるんだい――!」
「今日は窓から入ってきてはいないから安心しろ」
「――というか、あんたからしてみりゃ、ここ敵地だろ」
「な、何を言う――! 夜貴の妻たる妾は、関係者でもよいだろうが!」
「むしろ妻でも所属してなければ一般市民扱いですよ」
「うるさいうるさーい! グレーゾーンなのだから多めに見ろ! 妾も、この事態を見過ごせないからここへ来たと言うのに!」
呉葉は机から降りると、小柄な体躯を大きく見せようとするかのように両手を上げた。
――だが、実際呉葉がいると心強く感じるのは、僕だけではないだろう。なんだかんだ、鬼神と呼ばれた存在なのだ。
「――で、推測できなくもないって、どういうこと?」
「ん、ではその前に問題だ。窓を破って入ってこなかったとしたら、妾はここにどうやって入ったと思う?」
「そりゃ、扉からじゃないかい?」
「開けて入ってきたら、誰がしら気づいたろう? 扉は真正面だぞ? いろいろごまかしは出来るが――ハズレだな」
「――と言う事はアレか、お得意の空間転移か」
「ふっ、冴えてるじゃないか。正確には、別々の空間に穴を開けて、入口出口と出入りしているのだが。しかしそうすれば、今のように前触れ無く、突然現れることが可能だろう?」
「ちょ、ちょっと待ちなよ呉葉ちん! この流れはつまり、さっきのミサイルは同じようにして突然出現したとでも言うつもりかい?」
「まあ、飽くまで推測だがな」
「つまりあの攻撃は、あんたと同じ力を持った妖怪の仕業ってか」
「さて、そこまでは断言できん。いや、むしろ確率としては低いとも言える」
呉葉すぐ真横の空中に人差し指で線を引いた。すると、ペーパーナイフで裂かれた紙のごとく、空間に切れ込みが入った。
「このように、妾は空間に穴を開けることができる。しかし、別に特殊な能力ではないぞ。カッコイイと思ったから、あれこれ自分の妖力を試行錯誤して力づく編み出した努力の産物なのだ」
「動機がなんだか呉葉らしいなぁ――」
「そう言うわけだから、元手となるエネルギーさえあれば、いくらでも再現可能なのだ」
呉葉が自分で開けた穴を人差し指で撫でると、瞬く間に夢幻のごとくそれは消え去った。
「ならば、それが同じ力の妖怪であるとは言い切れない。そればかりか、妖怪であるかすら。あるいは、科学力の産物であると言う可能性も否定しきれないのだ。もっとも、空間転移自体仮説にすぎないがな」




