《第498話》『小狸ふうり、大妖怪に仕掛ける!』
「狂鬼姫、余に力を貸せ!」
唐突に僕らの家を訪ねに来た、九尾の狐・藤原 鳴狐。彼女は鬼気迫る様子で、炬燵で暖を取る僕らの部屋(和室)の戸を開ける。
「ええい空けるな寒い!」
「貴様はぬくぬくしおって! そんな暇があるなら余を助けるのじゃ!」
「なんで妾が貴様なんぞを助けねばならんのだ! 早く閉めろと言っている!」
「その前に、いつの間に家に入ってきていたのかと言う方を突っ込むべきだと思うんだけど――」
炬燵から出ない呉葉。戸を閉めない鳴狐。――とりあえず、だ。
「呉葉、とりあえず話だけでも聞いてあげたら――? この前だって、助けてもらったわけだし……」
「むぅ――夜貴がそう言うなら。まあ、戸を閉めたらまあ、考えてやらんでもない」
「考えるだけというオチはナシじゃぞ! 絶対じゃぞ!」
鳴狐はそう言うと、そっと引き戸を閉めた。その所作には気品のようなモノがある当たり、あんな振舞をしていても、育ちの良さや立場ある者らしさはあるようである。
「――で、何なのだ? 妾と貴様の仲は親友ではなく宿敵だと思っているのだがな」
「余とてそう思っておる! じゃがな、此度の問題はそんな間柄を無視してでも何とかせねばならぬ問題なのじゃ! みかん食っとる場合ではない!」
そう言うと、鳴狐は呉葉が剥いたみかんを取り上げて自らの口に押し込み、代わりに妙なデザインの茶碗が渡された。
「おい、妾のみかんを食うな。そして南米のお土産みたいな茶碗を渡すな」
「これは余の茶碗――だったものじゃ」
「妙な趣味に目覚めたな貴様」
「『だった』と言ったじゃろう!? 日ごとに、身の回りのモノがすり替えられているのじゃっ!」
「ほーん。で?」
「貴様、この怪奇現象を嘘だと思うておるじゃろう!」
「妾も貴様も存在自体が怪奇だろうに――」
お茶碗を横に置き、再びみかんを剥き始める呉葉。
「そして、こんな書き置きまであったのじゃぞ!」
「うるさいな、今度は何だ? なになに? 『お次は狂気鬼の車だ!』だと――?」
「…………」
「…………」
呉葉は、勢いよく立ち上がった。
「おのれぇ!? つい先日修理に出したばかりなのだぞォ!?」
なお、車はラクガキされていました。真っ白なボディに、黒の油性ペンがよく生える――。




