《第495話》『愛ゆえに』
「ううむ、買い物に行こうかとも思っていたが、どうするか――」
珍しく、本格的な積雪。家の前の雪かきを終えた呉葉は、自慢の大柄なスーパースポーツカーを見ながらそう呟いた。
――ちなみに彼女の雪かきは、自慢の鬼火で纏めて解かし、蒸発させると言うモノ。ここが一応住宅街であることを考えてほしい。人の少ない早朝にやったからまだよかったモノの、ボヤ騒ぎがあったとかなかったとか、ちょっとした騒ぎになった。
「この前、スタッドレスに履き替えてたよね?」
「うむ、それはそうなのだがな」
「雪の上の運転が怖いとか――?」
「馬鹿を言え。妾とGT-Rがこの程度でどうにかなるわけなかろう。妾自身は己の反射神経に自信があるし、車はタイヤさえしっかりしていればスキー場を駆け上がれるような車だぞ?」
「は、はぁ――」
「ただ、な。何かこう、今日は事故る気がしてな。ほら、滅多に雪の降らぬ土地故、雪を舐めくさりノーマルタイヤで道路に出て騒ぎを起こすヤツもいるだろう? そう言う奴に巻き込まれそうで、な――」
「反射神経に自信があったんじゃ――」
「それは滑ったらの話であってだな――基本、急な操作は危ないぞ。突っ込んでこられたら、どうしようもない」
まあ、積雪のあった地域でのそう言った事故は恒例行事みたいなもの。彼女の言うことも、分からなくもない。
「――というか、それこそ空間跳躍でいけばいいんじゃ」
「妾とて可能な限り人間らしい生活をしたいぞ! 空間繋げて買い物に行く人間がどこにいる!」
「それを言ったら、雪かきを手から炎出して済まそうとする人間がどこにいるんだよ!?」
「雪かき用シャベルが無かった以上、仕方無かろう!」
ちょっと、彼女の基準は分からない。――まあ、それ程必要に迫られている感じでもないし、今日のところは家の中でぬくぬくしていてもいいんじゃないかな。また恐ろしく高い車の修理代払うのも嫌だし。あんなに車の修理が高いモノだとは。
――そう、思っていた矢先だった。
呉葉の車に、コントロールを失った軽自動車が突っ込んで来たのは。




