《第493話》『ヒトのデートを邪魔する輩は――』
「遊、ちょっと居づらいんだが――」
「ん、ん」
一つのお店に並ぶ、ズラリとした行列。俺、狼山 俊也は相変わらず黒のロングコートで、遊の姿はゴシックドレス。
出勤して早々遊につれられた俺だが、一体全体どこに並んでいるのかと言うと――、
「ケーキショップ――ちょっと、見た目がファンシーすぎないか?」
ピンクの下地に、白のフリルみたいな枠取り。おまけにそこに並ぶのは女性が大半、時々カップルみたいな男女。少なくとも、俺達みたいな真っ黒なヤツはあまりに場違いすぎる。
――ただ、チラシを押し付ける(というか実際に顔面にぎゅーぎゅーされた)ように見せてきた辺り、相当来たかったのだろう。こいつ、そんなにケーキ好きだったか?
「しかし遊、混んでるな」
「…………」
「待ち時間90分って――某ネズミの国じゃねぇんだから」
「…………」
「あ、別に待つのが嫌だってわけじゃないぜ。ちょっと肩身が狭いだけでな。足、疲れてないか? 背中はいつでも空いてるから、いつ言ってくれても構わないぜ」
「…………」
「遊――?」
あまりにも反応がないので、俺は少し屈んで遊の顔を覗き込んだ。いつもは、喉を鳴らすなり触ってくるなり反応があるはずだが――相変わらず無表情のまま、正面の列をじっと見つめて……、
「うわぁあああああーーっっ!!?」
「ぎゃぁあああああーーっっ!!?」
突然、前後の列から悲鳴。ハッとなって顔を上げると、男女問わず衣服がどこぞヘか飛んでいって大パニックに。
次に遊の顔を見た時、彼女の顔は幽鬼のごとくニタリと笑っていた。
こいつ、やりやがった――!?




