《第491話》『大妖怪。小妖怪にお年玉をあげる』
「世間では門松の片付け、余らは瓦礫の片付けとは――」
森林の中、開けた敷地内。突然謎の崩壊を遂げた新築の片付けを見守りつつ、余はゲンナリとした気持ちになる。
今思い返しても、何が起こったのか理解できない。バナナの皮を拾おうとして、どうして家屋が崩れるのか。しかも下は汚泥。この白面金毛九尾の狐(の娘)ともあろう余が、泥だらけだ。
「しかも、侍渺茫のヤツは撤去作業に参加せず、うわごとのように何やら呟いておるしのう」
頭を抱え、壁の隅で、「許して候。許して候」とつぶやきつづけるばかり。あの真面目な侍渺茫に、一体何があったと言うのか――。
「それはそれとして、奴らは来なかったのう――」
余は袖から「ポチ袋」なるものを二つ取り出して眺めた。家来に買ってこさせた袋(絵柄は妙に頭のデカい二足立ちの猫。このような妖怪は見たことが無い)に、お金を入れておいたものだ。
これは俗に言う「お年玉」と言うヤツ。狂気鬼のアホなら玉ころを落としてそのような下らぬことを言い出しそうだが、余の用意したモノは正真正銘意味のあるものだ。
「ま、来なければ来なかったで、それもよかろう。うむ、よいのじゃ」
別に、余の軍門に加えようとか、そう言う事は思っていなかった。ただ、知り合いの子供と言う状況が余にとっては珍しかった。それだけだ。
――うむ、他意はない。ないのじゃ。
「――む?」
とかなんとか考えていたら。いつの間にか、余の手からはお年玉が二つとも消えていた。
「お、落としたかえ? いや、そんな筈――」
「ははははははっ! こいつは頂いたっぺよ!」
「!?」
余は、声のしたほうを振り向いた。
――開けた敷地を縁取る木の上に、妾があの双子に渡そうと思っていたお年玉を握りしめる、狸尻尾を生やした小娘が居た。
「さらばだっぺ!」
「き、貴様、何者じゃ!? というか、それは貴様にくれてやるモノではな――」
余は、追いかけるべく足を一歩踏み出した。
足元に、突然大穴が開いた。




