《第四十八話》『現れたそれは、』
「う、うぅ――っ」
「さて、と――」
穹島先生を奥の壁に叩きつけた呉葉は、僕を見下ろした。
あの時同様、乾いた瞳で。
「どうやら、今の妾はお前が意識を失えば消えるらしい。さて、どうしてくれようか」
「こ、このままひと眠りさせてくれたら、嬉しい――がっ!?」
「今の話を聞いておとなしく妾が許すと思ったのなら、貴様の頭は熱帯雨林だな」
お、お花畑じゃないんだ――!? いや、それの上位互換的な意味で言ったのは分かるんだけどさ!?
――やっぱり呉葉は呉葉だった。けど、状況は普段通りとはいかない。
「まっ、待ちなさい――っ! そこの鬼神……ッ」
「うん? ああ、そうだった。貴様もいたのだったな。だが、正直全く興味ない」
「なんですっ――ッ!?」
呉葉は仕掛けようとした藍妃の武器を一瞬のうちに払い飛ばした。攻撃の隙も、まるで与えられない。
「妾には、世の平定のために君臨するという重大な使命がある。悪いが、消えるわけにはいかんのだ」
「――で、でも、それはつまり……僕にずっと意識を保ってろとでも言うつもり!?」
「当たり前ではないか」
「無理だよ! どれだけ頑張っても絶対寝落ちするよ!?」
「無理と言える時は、実はまだまだ頑張れるものだぞ?」
「ワタ○!?」
「それでも無理だというのならば――そうだな」
そう言って、呉葉は服のボタンを外し始めた。
「何やってんの!?」
「跡継ぎ作って、そいつに役目を引き継がせようと思ってな」
「至るところからもうツッコミきれない問題が!?」
「うん? 何、突っ込みたい? おとなしそうな顔をして、案外肉食系だな」
「ちょちょちょ、ちょっと夜貴!? あんた何言ってんの!? この浮気者!」
「僕のせいじゃないよね!? というか浮気者って、そもそも藍妃とつきあって無いし、大体僕既――」
「よーし、妾張り切って寝取っちゃうぞー」
「ストップストップ!? うわああああああああああああああああああああああっっ!?」
だんだん調子に乗り始めたのだろう。呉葉は興奮半分、勢い半分で次々とボタンを外していく。
まさか、過去の妻に犯されることになるとは――、
がぼんっ!
「ぬはァッ!? 何事だ!?」
突然、呉葉の頭にジャック・オー・ランタンが被せられた。
「貴様こんのォ、どこの痴女だァアホォ!!」
そこにはもう一人――僕の妻であるほうの呉葉が立っていた。




