《第488話》『年が巡り、明けるたびに思い出すことになろう』
「あれ、おしるこ?」
「うむ。今日は1月11日。鏡開きだからな」
「そっか、もうそれだけ日にちが経ったんだね」
僕の前に、小豆を砂糖で甘く煮た汁が出される。その中には、鏡餅として玄関先で飾られていた餅が開かれ沈められている。
「幸運にも、今年はカビていなくて安心したぞ。もう二百年近く前の話になるが、しもべの一人が状態を確認せずにおしるこの中に入れおってな――それで何人かが腹を壊す羽目に」
「妖怪なのにカビでお腹壊さないでよ――」
「わ、妾はではけっして無いぞ! 強靭・無敵・最強の妾がカビごときで腹を下すものか!」
なんとなく、当たったのは他ならぬ本人である気がした。妙に尊大な言い回しをする時と言うのは、大抵彼女がいらん不運を引いてしまった時である。
「――というか、元々は怨みの権化である鬼が、神仏に感謝と言う意味を含む『鏡開き』をずっと昔からしてるのがすごく違和感が……」
「ふふん、負の感情から解放された妾には、そのようなこと関係ないぞ?」
お餅を伸ばし、おしるこを啜る。
「しかし、うまくできたようで何よりだ。妾も、初めて作ったからな。料理などもそうだが、身の回りのことは全てしもべ共に任せていた」
「どうやって作り方を?」
「ある程度調べて、後は零坐にLINEで聞いた。あやつは何でも知ってるからな」
「一応、呉葉の方が年長者でしょー」
「一応とはなんだ! 文字打ちの速さも若い奴らに負けない、ハイスペック年長者だぞ」
「そりゃあ、年がら年中やってたら、ねぇ――」
「…………」
「…………」
「――駄目だ、正月の残り香を嗅いでいると、寂しくなってきた」
「謳葉、活葉、どうしてるかな――」




