《第485話》『遠い未来。近い未来』
「行ってしまった、ね」
夜貴の呉葉の目の前で、謳葉と活葉、二人の娘は消えた。一瞬の強いが明滅していたかと思うと、次の瞬間にその姿は書き消えた。
二人とも、未来へと戻ったのである。手のひらサイズのタイムマシンで。
「もとより、『いるべき者がいない悲しみ』をあの二人は知っておる。故に、諭してやればすぐに理解はするだろうと思っていた」
「未来に、僕達両親が居ない悲しみ――」
「奴らは優しい子だ。そんな心は、自分達を大切に想っている者が居なければ育たぬし、そして、それはつまり必要としている者がいると言うことでもある」
「そして、そんなヒト達が、謳葉や活葉が居なくなったら、どれだけ悲しむか。居ないことが、どれだけ辛くなるか、だね」
「うむ。そして、それはすなわち居場所でもある。――もちろん、ここに居場所がないと言う意味ではないが……突如降り立ったこの時代よりも、元の時代の方が、その居場所は重要だろう」
そのように語る小さな鬼神の目は、いつもよりも潤み濡れを増していた。そして、もうこの時代にはいない、今までは娘たちの居た虚空を見つめている。
「――もしかして、泣いてる?」
「う、うるさい、お前もだろうが。――大丈夫だろうか。やはり、未だ明確に危険の存在する未来へと帰すのは、心配だ」
「――僕もだよ。けど、きっと大丈夫だよ」
夜貴は、思わず呉葉の肩を抱いた。その瞳は呉葉と同じく潤んでいるが、その一方で口元は微笑んでもいる。
「――夜貴」
「何?」
「早速今夜、謳葉と活葉に会うための布石として、身体を重ねようではないか」
夜貴は鼻血を噴いた。




