《第484話》『時を越えることで生まれる歪み』
「おかーさん――?」
「妾も、正直なことを言えば未だ危険の残る未来に、お主らを帰すのは心苦しいと思っていたところだ」
呉葉は、不敵な笑みを浮かべ、全身に殺気を漲らせながらそう言った。ぽきぽきと指を鳴らし、その言葉通り、全てを破壊せんとでもするかのように。
「おかーさん、それは――っ」
「何か問題があるのか? その時代の妾は、既に命を落としている。時空統合の仕組みを正確には把握してはおらぬが、このまま妾自身が未来へと赴くことも可能だろう」
「おかーさんは、邪気の影に敗れて死んじゃったんだよ!?」
「相手がどれほどの力を持っていようと、タネさえ割れていればどうにでもできる。それでもって、後はこの時代なりお前たちの時代で共に暮らせばよいのだ。煩わしいモノなど、全てなぎ倒してな」
「……――っ、」
活葉も、そして謳葉もおまけに、顔をしかめてしまった。理屈ではない。そのあまりに横暴な、筋を通さない発言は、感覚的にその道理を逆なでしている。
「…………」
しかし、それに対し夜貴は何も言わない。絶句しているのではない。呉葉が、何を伝えんとしているのか、それを理解しているためだ。
「どうした? 妾はてっきり、喜んでくれると思ったのだがな?」
「おかーさんは――」
「うん?」
「おかーさんは――おかーさんは、どうなるの?」
「どうなる、とは。どういうことだ?」
「おかーさんが居なくなったら、この時代のおかーさんを大切に思ってくれているヒトは、どうなるの? おかーさんのことを大切に想うヒトがたくさんいるのに、おとーさんだって――」
本来あるべき時代に生きる、と言う事。それは、そのヒト本人だけの問題ではない。
その問題は、その時代に生きる本人。周り、その全てにかかってくる。
一見何事も無いように見えても。必ず綻びは生まれ、要らぬ不幸を招く。
時を渡る、道理を乱す、と言う事は。裏にそんな歪みを作る行為、そのモノなのである。




