《第482話》『時空の乱れで生まれる歪み』
元々、近いうちに双子は、未来へと帰ることが決まっていた。
それは、正月で一家団欒を過ごしたその時にしようと、双子は決め、それを両親である夜貴と呉葉に伝えていた。
珍しく、活葉の顔に明確な表情が浮かぶ。
普段は表情を浮かべても、僅かに口角が吊り上がる程度。目が少々細められる程度だった。
しかし、今露わにしているその悲しみの顔は。誰の目にもはっきりと分かるほど。しんと静まり返った部屋は、ある意味で彼女に支配されていた。
「わたし、帰りたくない――」
そしてもう一度、活葉はそう呟いた。避けることのできない、すぐそこの未来。そんな望まぬ未来を忌避する声。
「活葉――」
「――そう、よ。何で帰らなきゃいけないの? おとーさんがいる。おかーさんがいる。ヒトから見ればたったそれだけのことかもしれないけど。わたしにとって……いいえ、わたしたちにとっては、これ以上ないほど重要なこと」
「…………」
「えっ、で、でも、未来の僕達が死んでしまう原因――邪気の影は消えたんだし、大丈夫なんじゃ……」
「夜貴。世界と言うものは、どうやらいくつも存在するらしい」
「――どう言う事?」
「平行世界、と言うモノらしい。道摩のヤツが言っていたが、アイツは別の時間軸の自分と交信し、情報のやり取りをすることで、妾の姿を模した身体を手に入れるに至った。そこに至るまで、幾度となく別の時間軸で失敗を繰り返しながらな」
「えっと、つまり――?」
「平たく言えば、未来を変えることは出来ない。いや、もう少し正確に言うならば、未来の出来事を知って事件を解決したとしても、そこからは解決した未来と、解決していない未来に分かれるだけなのだ」
夜貴は、未来の自分の娘たちが、元いた時代に帰らなければいけないことを知っていた。だが、彼女たちの帰る未来そのモノには何の変化がないことなど、聞いていない。
「で、でも、そんなの本当なのか分からないんじゃ――」
「もし時間軸という概念が無ければ、道摩は別の自分とは交信したりなどせぬ。ただ過去に立ち帰ればいいだけだからな」
「そして、同じ時間軸に同じ人物は存在できない。わたしたちが未来へと戻れば、抜けたパズルのピースが嵌るように、元の時間軸へと戻ることになる」
痛みを堪えるような、沈鬱な活葉の表情――、
「そしてそこには、おとーさんも、おかーさんも――! 二人とも、もういないの……っ、いないのよ――ッ! すでに死んじゃったから……!」
そんな苦し気な活葉に、夜貴も呉葉も、何も返すことは出来なかった。それは、彼女の気持ちを考えればこそ。大切な娘だからこそ、その気持ちを無視した言葉を投げかけることは出来ない。
「――ばか活葉」
「――え?」
「活葉のばか! わたしたちがそんなこと、いっちゃだめじゃんッ!」
だが、そんな活葉に。今まで珍しく騒ぎ立てなかった謳葉が、厳しい表情をして口を開いた。




