《第481話》『避けられぬ時』
「さて、お前たちにはお年玉をやろう」
「呉葉、右手に持ってるさっき買いに走ったポチ袋はいいんだけどさ」
「ん?」
「左手のビー玉、使うつもりないよね?」
「…………」
「伝統芸能にも残されるべきものと、残されるべきではないモノってあると思うんだ」
「…………」(サッ
「無言で仕舞った!?」
「さて、お前たちにはお年玉をやろう」
「うん、無かったことにしたいんだね。僕もちょっと言いすぎたね」
呉葉は、二つのポチ袋を謳葉と活葉へと差し出した。
それぞれ、入っているのは五万円と同額。デフォルメされた白い鳥のイラストが羽ばたく、水色のそれ。
「おとしだま! いくら!? ひゃくまんえん!? いっせんまんえん!!? いちおくえん!!!?」
「破産するわ! お年玉は大会の賞金でも宝くじでもないのだぞ!?」
謳葉は「ちぇー」と口を尖らせながら、しかしすぐにその顔を微笑みと変える。そして、「ありがとう」と言いながらそのポチ袋を受け取った。
「…………」
「活葉。君も、受け取りなよ」
「…………」
「お正月の恒例行事! ううむ、過去、しもべ共にこうやって渡して来たが、娘にあげるというのは、またなんとも不思議な気持ちになるな!」
「…………」
「活葉――?」
「まあ、夜貴は稼ぎいいと言っても成人しておらぬ先行き不安で大失敗しいつ失職してもおかしくない男だからな! 賢い活葉は、引け目を感じているのだろう」
「ちょっと呉葉!?」
「おかーさん!?」
「はははっ、冗談、冗談だぞ」
詰め寄ってくる謳葉と夜貴に、呉葉は笑って返事をする。冗談を言い合う家族の絵。子の絆は、決して何人たりとも引き裂くことは出来ないだろう。
そんな三人を見て。活葉は重い口を開く――、
「嫌よ――」
「え――?」
「わたし、帰りたくない――っ!」




