《第480話》『最も鬼神の生命を追い詰めたもの』
「できたぞ、お雑煮。のどに詰まらせぬよう、気を付けて食べるのだぞ」
おせちの残りと、お雑煮。重箱の中の料理はいくらか纏められ、お餅には少しばかりだが飽きてきた樹那佐一家である。
「――なんだかんだ言って、結構お料理できるよね呉葉」
「ふふーん、妾を誰だと思っている? 伊達に千年生きておらぬ」
「中身を焦がして外は生焼けなんて言う、意味の分からない失敗をしていたじゃないか」
「う、うるさい! あれはちょっと鬼火で調理できるか試していただけだ! 失敗は成功の元なのだぞ!」
夜貴と、呉葉。隣り合って楽しそうに話す二人を、向かい側に並んで座る謳葉と活葉は穏やかな瞳でみていた。お雑煮の餅を伸ばしながら、その口元には微笑みが浮かんでいる。
「おかーさん、鬼火で料理は、文化人としてどうなのよ」
「できるようになっておいたほうが、災害とか起こった時にいいだろう! 備えあれば、」
「うれしいな!」
「うれしいな。――っ、違う、憂いなし! 何をつまらんシャレを言わせるのだ!?」
「えっ、違うの?」
「――謳葉。ちゃんとお勉強してる? 学校には行けないけど、教科書は支給されているでしょう?」
「ん? 窓から自然に還したよ?」
「しなよお勉強!?」
「えー……ずっと座ってたら身体固まっちゃいそうなんだもん」
「ちゃんとお勉強しないと、呉葉――おかーさんみたいになっちゃうよ?」
「どーいう意味だっ、ヴッ!?」
呉葉が、詰まった声と共にのど元を押さえた。
「――呉葉?」
「ヴ! ヴ! ヴ!」
「たいへん! おかーさんがもちをのどに!」
「な、何やってるのよおかーさん!?」
「呉葉! 冷静に!」
夜貴が呉葉の背中を強めに叩いてやると、げほっ、げほっと咳き込みながら、百戦錬磨の鬼神は呼吸を取り戻した。
「あ、危うく、この鬼神ともあろう妾が、お餅に殺されるところだった――」
「――空気が無くても、案外生きてそうなんだけど」
「何を言うか! 妾とてこの星に生きる命だぞ! 酸素は必要だ! 鬼だって息をしているのだぞっ!」
――人間なら出血多量で死んでいてもおかしくない怪我でも割とピンピンしていた、かつて狂鬼姫と呼ばれた鬼の言葉である。




