《第四十七話》『僕の記憶にある、《最強の妖怪》』
「呉、葉――……」
僕の頭から呼び出された《最強の妖怪》。それは、僕のよく知る、髪や服、肌まで真っ白な一人の少女。紅い瞳に映るその景色は――、
「――ふっ」
「っっ!!?」
他ならぬ、鬼神『狂鬼姫』のそれ、そのモノだった。
「う、く――」
「うん? なんだ貴様ら、もうオシマイか?」
僕と藍妃は、一瞬のうちにして距離を詰めてきた呉葉に殴られ、壁に叩きつけられた。
並の妖怪相手ですら苦戦する僕であっても、流石にここまで容易く接近を許したりはしない。文字通り、彼女は『最強』の存在である。
――が、こんな程度は、彼女の力の片鱗ですらない。
「儂は、樹那佐か静波多、お前たちのどちらかが儂を倒すための指令を受けると予想しておった。そして、格上である儂を倒すために、よく知るもう一方の力を、よく知る間柄から連携も想定して借りることも」
「まさか――」
「その通り。樹那佐が『狂鬼姫』と過去接触していることも調査済みじゃ。そして、この力を『解放』の二文字のために使わせてもらう。樹那佐、眠らせはせんぞ?」
穹島先生は、そう言って呉葉の隣に立った。『物理幻術』の限界は知らないが、使い手たる先生が幻術の力を確信している以上、僕の頭にある『狂鬼姫』のイメージ――それが、ほぼ完全に反映されていると言ってよいだろう。
「では『狂鬼姫』よ。まずはこの二人をなるべく傷つけぬよう、束縛するのじゃ」
穹島先生は、より小柄な呉葉の頭に、その皺だらけの手を置く。
僕は――その、ペットか何かを扱うようなその仕草に、言いようのない苛立ちを、
「触るな、老いぼれが」
「――ッッ!!?」
穹島先生の年老いた体に、呉葉の裏拳が炸裂した。




