《第476話》『出血多量』
「幼馴染、知っているか? もはや一年経つというのに、夜貴はウブなまま。口づけは未だ片手で足りる程度にしかしたことは無いし、当然妾は子を身ごもったことすらない」
「でもアンタ、あの白い二人は――」
「あの子らはいろいろ話がややこしくなるから、一先ず話は置いてくれ」
「妾との婚約は、夜貴の中に刷り込まれた意志が行ったモノ。ならば本来ならば、それに準じていくもの。しかしあいつは――、」
「あいつは?」
「あ、あいつは――」
「――?」
「そのたびに、鼻血を噴き出してきた――」
「――は?」
「鼻血を出して、出して、その都度状況を中断してきた――中断してきやがったのだ、あの男は……っ!」
「ちょっと待ちなさいよ、そう言う流れじゃないでしょ!? 何それバッカじゃないの!?」
「やかましい! 妾の身の内からあふれ出る性欲は、何度も何度も多量出血によって阻まれてしまったのだァ!」
呉葉はまるで子供のように、その手足をばたつかせた。体格が体格なので、すごく様になっている気がする。
「封じられた意志が妾と夜貴を結び付けた。しかし、夜貴はそれに抗っているのだ。真に自分が、妾を本気で愛していると納得する、その時まで」
「――鼻血で?」
「うむ、鼻血で」
「色々ここまでの空気を台無しにしている気がするのは私だけ?」
「問題ない。割と早い段階から台無しにしている」
けれども、と。私は思う。この女は、どうしてそこまで想うことができるのだろう、と。
それはまるで優しく包み込むかのような想い。相手を理解し、認め、そして愛す。それは私には思い至らなかったことで、しかし、呉葉はまるで呼吸をするかのごとく自然に、すんなりとそれを成している。
――こう思うのは、今日で何度目だろう。
ああ、到底叶わないなぁ。




