《第475話》『独りよがりの想い』
「強制――」
その言葉は、妙に強い圧力を私に感じさせた。ただの言葉ではない言霊めいたモノ。少なくとも、私はそれに心地よい響きは覚えない。
「そもそも、平和維持継続室に所属する奴らの大半――貴様も含め、洗脳教育めいたことをされているが……夜貴に関して言えば、人間としての本能に差し込まれるかのように、『平和という結果を導き出す』思考をするようになっている」
「…………」
「勿論、夜貴はそれを理解していない。言われたとしても、ピンとは来ないだろう。それが今は亡きヤツの仕業によるモノなのか、それとも別の何かによるモノなのかは定かではないが。しかし、夜貴と言う存在は。いわばあらかじめインプットされたプログラムが、人のように振舞っているようなヤツなのだ」
元々の人格形成にかかわるかのような、それ。私がそれに関して思ったことは、「人格否定」だ。一個人の思考を、呉葉が言った通り根本から支配し、考える余地無く導く。
それを想うと。夜貴という一人の人間が、とてつもなく憐れな存在に思えた。
「――だが、」
しかし、呉葉は。
「妾が夜貴を愛するのは、そこに対する同情的なモノではない」
今しがた説明したことを打ち砕くかのごとく、強い意志で私によぎった想いを否定した。
「妾が夜貴を愛するのは――例えそんな舗装された道の上でも、本人すら認知していないところで生まれ始めた明確な自我で、妾を愛そうとしてくれるからだ」




