《第473話》『愛することは、ただ押し付け合うばかりではない』
「――さて、先ほどは取り乱して悪かったな」
談話室で腰かけ、呉葉と対峙する。
病院中は、未だ騒ぎの真っ最中。割れたガラスは全て外へ散っているものの、安全を考慮してか、注意が呼びかけられている。
――というか、仮にも平和維持継続室にかかわっている病院なのに、妖怪に好き勝手されているのはどういうわけなのか。ちょっとたるみ過ぎな気がしないでもない。
「だが、妾は貴様を許す気はない。貴様は、夜貴を己の勝手な価値観で否定した。妾の愛する者を侮蔑する愚者を、どうしたら宥免できようか」
「何が愛よ、人間社会を脅かす妖怪のクセに。クチではどれだけ繕って見せても、私はごまかせないわ」
私は、呉葉の内面を見透かそうとするかのようにその顔を見つめる。先ほどのような威圧感はあまり感じられないが、代わりにこれ以上ないほど不機嫌な表情を認識する。
――が、その顔が嘲りに変わった。
「ハッ、そんな狭い物の考えでは、夜貴のことを理解できるはずもないか」
「っ! なんですって――?」
「考える脳の無い愚か者だと、妾は言ったのだ」
妖怪のくせに、こいつは何を言うのだろう。怒りが、私の頭の中を支配する。窒息しそうになるほどの、真っ赤な香辛料の粉末が詰まっているかのように。
「――貴様、夜貴が何故妾を妻として迎えたのか、それを理解する気すらないな?」
「――アンタが同情を誘ったなり、誘惑したなりしたんじゃないの?」
「同情はともかく、この体系で誘惑など無理だろう。――げふっ」
「なんでダメージ喰らってるのよ」
「今盛大に自爆したところだ。――とにかく、だ」
呉葉は、私の目をまっすぐに見つめてきた。それは、この世に二とない、ルビーのような目だ。
「夜貴が妾と婚姻を結んだその理由。それは――それこそが、平和のためにあいつが導き出した答えだ」




