《第472話》『熱い犬』
「貴様、何の権限があって妾の夜貴を愚弄した!」
「うくっ!?」
呉葉が私の胸ぐらをつかみあげたため、息が苦しくなる。華奢で小柄な体躯が、私の足を宙に浮かせる。
「貴様は夜貴をなんだと思っているのだッ! 夜貴はな、貴様なぞとは全く違う次元でモノを考えているのだ! 力の強さだとかそう言うモノとは、全く異なるな!」
「く、呉葉――! 落ち着いて……」
夜貴が呉葉の腕に触れながら止めると、彼女は渋々と言った様子で私を降ろす。復活した自重によろめき、急に行えるようになった呼吸にせき込んでしまう。
「――しかし夜貴、随分酷い姿だな。パンで挟んだらとてもおいしそうに見える気がするな!」
「ホットドッグになる気は――!」
「おいしそうカッコ性的カッコトジル!」
「まだ昼間!」
「なるほど、夜にいただくホットドッグ♂というわけか――」
「いい加減にしないと怒るよ!?」
――と、思ったら。さっきの剣幕などどこへやら。圧倒的な威圧感などいつの間にか失せていた。同じ奴だとは、到底思えない程に。
「もう――っ、藍妃、大丈夫?」
「う、うん――」
「フン!」
「呉葉、何を怒ってるのさ?」
呉葉は、私と夜貴では「違う次元でモノを考えている」と言った。
しかし、ハッキリと告げられていながら、私にはその意味が理解できなかった。
何が違うものか。私も夜貴も、「平和維持継続室」に所属する戦闘員だ。一般の人間に及ぶ脅威、その可能性を排除するのが仕事。恐るべき危険の一部たる人ならざる者を狩りつくすことに、間違いは無いハズなのだ。
「――幼馴染。談話室で少し話すとしようか」




