《第469話》『あらびきソーセージはマスタードをたっぷりかけて食す』
「先ほどこそああは言ったが――ふむ」
「夜貴ッ!」
「あ、待て幼馴染!」
仲間内らしいのに争っている妖怪二匹を放り出し、私は駆けだした。待てと言われて待つなら、ここで走りだしてはいないだろう。
代わりに、私は後ろへ煙球を投げる。逃げようとする自分の姿で気をそらすことで着弾時に意表を突き、結果として自分の姿を完璧に煙に巻く。
「……――っ!」
そして、どうやらその目論見は成功したようだった。奴らは、私を追ってこない。
「ガラスは漏れなく外に割れているみたい、ね」
病院内に入ると、突然の事態に人々は混乱しているようだった。しかし、内側へと破片が向かなかったためか、誰一人として刺さったヒトはいなさそうだ。パニックによる怪我はさておき。
夜貴を特別視して相手が襲ってくることは無いだろう。しかし、それでも足は自然と夜貴の病室へと向いていた。途中、怪しいヤツが居ないか見回しながらではあるが、大切な幼馴染の元へと、私は走る。
何故なら、あの馬鹿は自分が無力であるにもかかわらず、そして、大けがを負っているにもかかわらず、この事態を見過ごそうとはしないだろうから。文字通り、我が身顧みずなアイツは、本当に自分が危うくなっても逃げないだろうから。
そうして私は、夜貴の病室にたどり着いた。
そこでは、夜貴が小学校高学年サイズの女の子に、チューブマスタードを押し付けられていた。




