《第468話》『私の心を動かす大切な幼馴染の名前』
「っ、ええいっ! シリアスな空気をぶっ壊すでないわ静菱!」
顔面に噛みつくように襲い掛かった髪の毛を、炎で焼き散らしながら呉葉は叫ぶ。
一方私は、髪の毛と炎の勢いで突き飛ばされ、尻餅をついていた。二人の妖怪の力は、まさしく人知を超えるモノ。ただの余波でさえ、それを実感せざるを得ない。
「……――ッ!」
「あ? 何だと? 『私は空気にされることと無視されることが嫌い』? 知らんわそんなこと! 自分のことを押し付ける前に、まず貴様は空気を読めェ!」
だが、それでも――、
「私がここで引くわけにはいかないのよッ!」
その時。突如として病院の窓が一瞬にして全て割れた。
「な――!?」
「ちっ」
降り注いでくるガラス。幾重にも破砕された鋭い破片が、この場にいる私達全員へと牙を剥いた。
妖怪である奴らに、それは大したものではないだろう。しかし、人間である私にとっては、無数の刃の雨も同然だった。
――それを、
「全く、何事だというのだ――?」
あろうことか、妖怪である呉葉がその炎を用いて、私の頭上にあるそれを全て焼き飛ばしてしまった。
「な、な――?」
意味が分からない。妖怪が、何故私を助けたのか。予想だにしない事態で、私の思考は完全に停止してしまう。
「――むぅ、懲りもせず、夜貴を標的にし続けているの、か?」
しかし、その名前が私の思考を即座に引き戻した。




