《第466話》『妖怪が、人間の世界に入り込むことそのものが罪である』
「このっ、野良妖怪――っ!」
私はスカートの下からショットガンを取り出すと、押し寄せてくる黒髪の津波に向けて打ち込んだ。だが――、
「避けた!?」
まるで蛇の集団が蠢くように、散弾を髪の毛が避けた。というか、どうしたら散弾なんて避けられんのよ!?
そうやってまごついている間にも、黒い女の攻撃が迫りくる。思わず髪を狙ってしまったが、本体を狙うべきだった。
「全く、平和維持継続室の戦闘員はこの程度か!」
黒い津波にあわや飲み込まれる、と言ったところで、私の視界を炎が覆った。舞い踊る高温のそれが、髪の束を焦げた羽のように散らせた。
その炎からは、強烈な妖気を感じる。有無を言わさず叩き潰すような、力強い妖力。
それは、並大抵の妖怪ではあり得ないような、押しつぶすほど濃密の――、
「くくっ、懐かしいなァ静菱! お前と相対したのは、いつのころの話だったか!」
「…………」
「何? 大正だろう!? 明治は既に終わっていたハズだ!」
妖怪――ふさわしい、ふさわしくないどころではなかった。
人ならざる者。妖怪は、人類の敵だ。奴らは、人々に害をもたらし、不幸を呼ぶ。決して相いれることのない、邪悪な存在。
平和維持継続室には、味方する人ならざる者も所属しているという。しかし、私からすれば、そんな例外扱いの奴らですら信用できない。
そんな妖怪の一匹と思われる、この呉葉と言う女。
きっと、夜貴は騙されているのだろう。こいつがひ弱な夜貴をどうするつもりかは知らないが、それを見て見ぬフリは出来ない。
――私が、夜貴を守らなくては。
私は、呉葉の背中にショットガンを突きつけた。




