《第465話》『一種の内弁慶とは時にこのような』
「ア、アンタ、何者よ!?」
「…………」
「黙ってないで何とか言いなさいよ!?」
「幼馴染! 静菱は既に問いに対して返している!」
「ハァ? というか、アンタら知り合い!?」
「ヤツは一見喋っていないように見えて、実は微妙に小さく口を開き、これまた小さな声で喋るのだ!」
そうは言われても。私の目には、宙よりふわりと降りたるその女が、到底口を開いているようには見えない。黒く、鍔の広い帽子。真っ黒なドレス。髪は顔をほとんど隠すが、なぜかその手にはゲーム機が。
「――ちなみに、何て?」
「ヤツ曰く、『前回の私のセリフと言葉でパッと思い出せたヒトは居るのかしら』だそうだ」
「どゆ意味――?」
「妾にも分からん。というか、コイツの喋ることで、意味の分かる言葉だったことは数える程度だ」
「…………」
「何? 『この465話を見ても思い出せない奴、《第345話》を読んで来い』だと? 貴様はさっきから何を言っているのだ!」
というか、若干親しそうなのはいったい何なのか。
到底人間とは思えない雰囲気をたたえる、「静菱」とか言う女はともかく、呉葉自身も、妖怪なのでは――?
「何を言っているのか知らんが、思い出せないというのであれば、それはお前の影が薄いのが原因だろう!」
「……――!」
「大体だな、今どきどんなに影の濃そうな姿をし、個性を出そうとしたところでだな? 主張できるモノが無ければ、杭はでなければ見られることは無いぞ! この引きこもりめ!」
「……――! っ!!」
「アイツ、目立ちたいの――? どう考えても、そんな活動的には……、」
「外に出るのが億劫で、その上恥ずかしがり屋で、しかも三度の飯よりゲーム好き! だがそのクセにネットアイドルとして活動してるような奴だからな! 来るぞッ!」
静菱の髪が、どどどっと、墨を流した滝のように地面に流れ始めた。




