《第451話》『裏で糸を引きし者ども』
「逃げた」
「な、なんだとォ!?」
忙しく指を動かしていたその少女の言葉に、おらは驚愕の声を上げる。
少女――黒くてヒラヒラしたどれすを着た、長い黒髪の無表情娘、思誓 遊。狼山と共に連れてきたこいつには、樹那佐 夜貴の襲撃を任せていた。
するとこいつは、「面白そう」と小さく呟き、「怪人トンマロク」という何かを突如出現させたのであるが――、
「に、逃げた、と言うことはどう言う事だっぺ!?」
「逃げた」
相変わらず、眉一つ動かさない、見た目同年代の人形のような少女。口数は少なく、しかし、その一言で伝えられる出来事は確かな形を持っていた。例えそれが、一つ前の発言と全く同じ言葉、口調であっても。
だが――、
「あれだけ自信満々に仕掛けたんだべよ!? どうして逃げられるんだっぺ!」
「静波多 藍妃」
「だべ――?」
誰だ? と、一瞬思って、おらは思い出す。
静波多 藍妃。おらが声をかけたうちの一人で、集めた奴ら同様、好き放題行っている者共を懲らしめるために呼んだのだ。
だが、静波多 藍妃はそれを蹴った。一部の奴ら同様弱みを握って――とも思ったが、奴の周辺に寄ると、どこからともなく発動した罠がおらに炸裂するのだ。
「どうする?」
「むむ、むぅ――」
遊に聞かれて、むむぅと考える。静波多 藍妃は意外にも手練れだ。それが樹那佐 夜貴を守っているとなれば、かなり事は難航するだろう。
けれども、こうなればこそ。意地になると言うモノ。
「りべんじ! りべんじだっぺよ遊!」
「ん」
ごーさいんを出すと、遊はまたせわしく指を動かした。何も繋がっていないのに、その先では怪人が糸につられた人形のように動き出しているのだろう。
さあ、第二幕の始まりだべ!




