《第450話》『昼間に覗く闇夜の空』
『クカカッ! 追いかけっこ鬼ごっこか! 面白い、どこまでワレから逃げられるか楽しませてみるといい!』
病院の廊下を、宙を舞いながら追いかけてくる怪人は、はためかせていたマントをばっと広げた。
するとその中から、無数の「たい焼き」がまるでミサイルのように飛んでくる。その勢いたるや、まさに弾丸。直撃すれば破裂した生地から、周囲にあんこがばら撒かれるであろう。
「というか、食べ物粗末にするのはどうかと思うわよ!?」
『クカカカカッ! 怪人にアフリカの食糧事情は関係無いのだ! 貧民どもよ、憤怒の眼差しを持ってワレを怨むがよい!』
「誰が貧民よ! というかアフリカでもないし!」
まるでこの怪人、意味が分からない。牽制のため、振り返って時々拳銃をぶっ放すが、まるで闇に飲みこまれるように吸収されてしまう。そのクセ、飛びだしてくるたい焼き(なぜか時折たこやきが混ざっている)は無尽蔵とも言えるほど無限に出てくる。
「っ、く、痛――ッ」
「ッ、夜貴――!?」
しまった。逃げるのに夢中で、夜貴の傷のことが頭から吹き飛んでいた。
大怪我だったというし、これで傷が開いたら一大事。とはいえ、立ち止まっていたらあの怪人にトンデモないことをされてしまう。
――普通に逃げるのは、難しいと判断すべきか。
「だった、ら――ッ!」
『クカッ!?』
私は、怪人と自分達の間の床に、煙球を投げつけた。一瞬の間に、騒ぎで混乱の起こっていた病院の廊下に、視界不良にするスモークが焚かれる。
「夜貴、今のうちよ――!」
「う、うん――」
こうして、私たちは怪人の魔の手から抜け出すことに成功した。
全く、アレは本当に何なのだろうか?




