《第四十四話》『穹島 栄ノ輔というテクニシャン』
「くっ、ビッグフットがこんなに強いなんて――」
「ふっふっふ――しかし、それはお主が悪いというモノじゃぞ? かっかっか」
直立二足歩行のゴリラにも似た生き物の後ろで、一人の老人が笑っている。
長いあごひげに曲がった腰。ぼろ布を組み合わせたような服を着たお爺さんこそ、穹島先生そのヒトだった。杖を突きながらも、相変わらず内側が老いさらばえた様子はない。
「藍妃、今こそスタンガンを使う時なんじゃ――」
「まだ、よ――まだ、何とか対処は出来るわ」
穹島先生の能力――それは、特定の対象が頭に浮かんだイメージを、実体化できるというモノだった。
先ほど、僕は天井にぶら下がっていた彼の「ビッグフット」という単語を聞いて、目の前にいるUMAと全く同じ姿の生き物を思い浮かべてしまった。その詳細までを正確に考えたつもりはなかったが、おおよそ、芋づる式に無意識で浮かべていたその強さまでが反映されてしまっているに違いない。
一応、弱点みたいなものはいくつかあり、その一つとして、相手の頭に触れなければその情報を引きだせないのだが――、
「そりゃ、ゆくのじゃビッグフット!」
「――っ!」
「しょ、所詮はただのデカいサルよ! さっきからグレネードランチャーまともに喰らって――」
「《モスマン》」
「――ッ!?」
穹島先生は、その『物理幻術』以外の幻術も得意としており、いつの間にか背後に回られる。そして、僕ら戦闘員は常に五感をフル動員して状況を見る訓練を受けているために、言葉を聞かないということすら難しい。
――結果、
「む、むむむ虫ィ!? たすけてーッ!?」
「ちょっ、夜貴ァ!?」
こんな風に、容易く新手の出現を許してしまう。
その戦闘手段を知っている僕らであっても、穹島先生を止めることは容易ではなかった。




