《第448話》『このじくじくと後を引く、今は苦痛でしかないかもしれない想い』
「それって、アンタの奥さんだっけ」
「うん。藍妃は会ったこと――あー、えっと、どうだったかな……」
「そりゃあ、当然――あれ、どうだったっけ……」
会ったことあるような。はたまたないような。頭の中で、軽くパニックが起こる。長い白髪で、小柄な女――というか女の子、だったことは覚えているのだが。
けれども、大事なのはそこではない。問題は、私の知らぬ間にコイツが結婚していたこと。
18で結婚というのは、いささか早すぎる、とは思うのだが、我が国の法律では可能とされている以上、それは仕方ない。
しかし、幼馴染にも等しい、しかも、その、なんだ。気になっている男の子が、離れている間にそう言う関係を結んでいた(しかもしかも私が全く面識のない相手である)と言うのは、かなりショッキングだったのだ。心臓に、鉛筆をブッ刺される感覚くらいには。
「――藍妃? ぼーっとして、大丈夫……?」
「え? あー、うん、えっと――最近ちょっと忙しくて寝てないだけよ」
嘘。任務に駆り出される回数や時間はそれ程変わらず、しかも非番の日まで駆り出されるほど優秀ではないため、生活習慣はかなり良好である。昨日22時寝、朝5時半起きである。
「無理しちゃだめだよ? 休めるときに、休んでおかなくちゃ。心配してくれるのはありがたいけど、自分のことを優先してほしいかな」
「――うん、そうね」
暗に、「帰った方がいい」とまで言われた。確かに、そのほうがいいかもしれない。
大体、私は既婚者相手に何を期待していると言うのか。コイツのことだからまるで分っていないだろうが、いい迷惑にもほどがある。
「そんじゃ、私帰る。アンタこそ、ゆっくり休みなさいよね」
「あはは、そうせざるを得ないけどね」
これでいいのだ。私と夜貴はただの幼馴染で、互いに当たり障りのない関係。それが一番楽だし、何より誰も不幸にならない。昼ドラの真似事なんて、死んでもごめんだ。
そう思いながら、私は病室の引き戸を開けた。
パリィンッッ
直後、突然病室の窓が割れた。




