《第447話》『時間を巻き戻せたら。それはどんなにすばらしいことか』
単純に、ヤバいと思った。
訓練時代からの付き合いで、まだまだ子供だった、というのももちろんある。しかし、である。出てくる記憶のほとんどが罵倒なのは、我ながらドン引いた。
幼少期の私。いくらなんでもそこまで言わなくてもいいじゃない! 嗚呼、言わなくていいじゃない!
――ともかく。今日は。今日からは、もう少し優しく接することに努めようと思う。
今までが酷すぎた。酷すぎたったら酷すぎたので、埋め合わせになるとは思えないながらも、箸でお豆腐つまむがごとく、対応しようと感じた次第。
「ね、ねぇ、夜貴。何かしてほしいことない?」
「え? う、うーん、特にない、かな――?」
「な、何でもいいわよ? ジュース買いに行ってあげてもいいし、何か暇つぶしになりそうなものもってきてあげてもいいし!」
「そんなこと言われても、今は間に合ってるし――」
「じゃ、じゃあ、ごはん! ごはん食べさせてあげましょうか!? 背中大怪我したんでしょ? だったら、腕動かした時ひきつって痛いんじゃない?」
「ううん、目いっぱい伸ばさなきゃ大丈夫かな。それにもう食べちゃったし」
「じゃ、じゃあ、着替えを手伝って――」
「さっき済ませたよ」
「…………」
「…………」
「もうっ、さっきから何なのよ!?」
「えっ、なんで僕怒られたの!?」
ああっ、もう、バカバカ! 3、4が無くて、5にバカ! 私の大バカ!
本当に、バカ、というかアホだと思う。今しがた、優しくするって心に決めたところなのに。つい怒鳴ってしまった。夜貴も、今の余りに脈絡のない怒り方に、困惑している。
今度こそ。今度こそ――心穏やかに、穏やかに。
「大丈夫だよ、だいたい呉葉がしてくれたし」
きゅっ、と。
その名前を耳にした時、心臓が握られたような。心が遠くへ飛んでいくような。気が遠くなるような――、
そんな錯覚を受けた。




