《第442話》『恐るべき罠』
「うむうむ。やはり新築とはいい物じゃのう」
人里離れた山林の、余が展開する結界に隠された隠れ家。そこに、遂に余が住まう屋敷が出来上がった。
これで、高貴さのかけらもないあばら家からはオサラバ。ここから、余ら闇に生きる者共の、人間への復讐が始まるのだ。
何? 住むところは大して関係がないじゃと? 病は気の持ちようと言うように、気分の高揚は、重要な要素であることは否定できようもない。故に、同胞共(わずか数名)に作らせたこの新築は、非常に大事な意味がある。
「む――?」
と、そんな、これからの未来に思いを馳せていたその時である。
「誰じゃ!? 廊下のど真ん中にバナナの皮なんぞを捨ておったのは!?」
出来上がったばかりの家に、こんなモノをポイ捨てするなど! たまたま余が通りかかったからよかったモノを、他の者であれば踏んづけすってん、怪我をしていたかもしれない。
「むぅ、仕方ないのう――」
周りを見ても誰もいないため、余が片づけることにする。食べた者が、ごみは片付けるべきだろうに。それが世の中の常識、当たり前であるハズじゃろう! まったく、近頃の奴らは。――そう思い、妾は足元のバナナの皮を拾う。
頭に、ごわんっ! という音と共に痛みが走った。
「っ、っだァ!? なん、じゃ――!?」
それがタライだったこと理解しつつ、よたって足が一歩前に。
つるん、と。バナナの皮を踏んで、余は後ろに引っくり返る。
そして床に尻餅。すると余の体重は軽いはずなのにあっさりバキッと穴。
そのままその下の泥水にドボン。
「ご、ばっ、な、なん、なんっ、なんじゃ――!?」
汚泥で溺れる余に追撃のタライ二号。
顔面からどっぷり顔をつけてしまった余は、頭の上に飛び出した耳でゴゴゴと言う音を聞く。
――な、なん、じゃ、今度は? いったい何の、
よもやその直後、崩れてきた新築の屋敷に押しつぶされようとは、誰が予想したか。




