《第440話》『反撃の狼煙』
「諸君。本日お集まり頂いたのは、他でもないっぺ」
スポットライトで照らされた、一人の少女。小学校高学年程度の体躯で、古びたパイプ椅子に足を組んで座るその存在は、可愛らしいお尻にしましまの尻尾を生やし、神妙な面持ちで口を開く。
「この世の中、目立たぬ者は、生きとし生ける者共の記憶から淘汰される運命にあるっぺ。流行り廃りの激しい服飾文化。一発屋芸人。目立たない知り合い。存在感のない漫画の登場人物」
妖怪の中でも、別に長生きでも何でもない。ついでに言えば、その見た目の背格好の人間とも、数年どころか数か月未満の歳の違い、しかも小学校ならせいぜい同学年内に収まる程度にしか変わりない年月を生きた、狸妖怪。
「おらは思う。現実に生きる我々が、同じ運命をたどってもよいものなのか! 否、断じてそんなことは、あってはならない、と!」
彼女にとって、その話がどれだけ真剣なモノか。真面目な表情が、全てを物語っている。確かに、仮面をつけて生きる者は、素顔のままでその生命を謳歌し、そして、この世界にて絶対なる存在感を放っているもの。
しかし一方で、その姿を隠しながら生きる者は、当然ながら主張をしない。なぜなら、隠れているのが当たり前であり、そして、表に出る機会を自ら求めないからだ。
「故に、おらはここに宣言する! この世界の、日の当たる表舞台へと進出することを! そして、のうのうと存在の光を放つ者共に、我らの気持ちを味わわせんと」
求めないのは、定められた運命故。誰も、それに気が付くことは無い。
だから、己がその定めを変えるのだと。狸少女、否、狸幼女ふうりは、目の前に集められた人々を前に、高らかと宣言する。
「今こそ、おらたちの時代の始まりだべっ!」




