《第439話》『 の存 忘れて』
「ふっ――」
高層ビルの上から、夜貴と呉葉、謳葉に活葉、そして駄狐の様子を眺め、妾はふと笑う。
奴らは無事、此度の困難を乗り越えることができた。内心、おろおろしながらその様を眺めていたが、何とか丸く収まってよかった。
正直、気が気でなかった。特に、呉葉が夜貴を物理的に傷つけてしまった瞬間など。
あの時は、結界を壊さず夜貴と駄狐をそのままにしておいたほうが良かったと思ったと思ったほどで、しかしなかなかどうして、生命力が強いようで何よりだ。
ともかく、これで道摩と狂気鬼の因縁に決着が着いた。それは決して明るく円満な結末ではなかったが、少なくとも前へと進む障害が消え去ったことは確かだ。
殺生石の邪気は夜貴によって浄化され。二人を取り巻く思惑も消え。敢えて奴らを追いかける邪悪な意志は、一つを除いてなくなったと言っても過言ではないだろう。
「さて、一段落ついたところで、ラーメンでも食べに行くかな」
これ以上、ここで妾の分身――本物を見守っている意味はない。次また、いつ何時何が降りかかるか分からないが、人生など山あり谷ありが当然で、しかし、常に気を張って歩いていては、体力の無駄と言うモノだ。
願わくば。「妾」の手に入れた幸せが、永久のモノであらんことを。
所詮ただの分身、遠き過去の幻想が、今に生きる者の邪魔をしようなど、おこがましいこと。妾にできるのは、それも忘れてしまった憐れなあの男の魂、同じ幻影として、弔ってやることくらいだ。
道摩法師――お前があの時救った白鬼は、大切な者と共に未来を歩んでゆくぞ。




