《第439話》『 に呉葉、汝 幸 なれ』
「――っ、おかーさん……?」
「…………」
空間の境から狐と共に脱出すると、謳葉と活葉がこちらを向いて迎えてくれる。
彼女らは夜貴を抱えており、沈鬱な表情をしていた。それもその筈、他ならぬ妾自身がその大切なヒトを傷つけてしまったのだから。
「――実に。実に、愚かなことをしでかして、しまった」
「…………」
「夜貴――……」
「おい」
道摩を倒すため。そのために使った殺生石。酷く濃く、そして狂気的邪気にまみれていたその妖気は、今はどういうわけか、純粋なそれとなっている。
しかし、今は消滅した邪念が妾を狂わせ――いや、現実逃避は止そう。
「――おい、狂気鬼」
「うるさい――」
妾が。この妾自身が、手にかけてしまったことに変わりないのだ。言い訳など必要ない。原因は。罪は。他ならぬ妾に――、
「う、ぐ、く――っ」
「……――っ!!?」
夜貴が。背中を真っ赤に染めていながらも、その目をゆっくりと開けた。
「だから、呼びかけておるじゃ――」
「夜貴ッッ!!」
「おとーさんッッ!」
「……――ッッ!!」
あんな負傷をして、てっきり妾は――と、鬱屈していた気持ちが弾けた。
よくわからないこと。すれ違ったこと。悲しいこと。それに対する重い気持ち。色々、それはもう、色々積み重なっていたけれど。
今は。喜ぶべきことは。素直に、喜ぶべきであろう。
掌の上からこぼれなかったそれは、確かに、そこに在るのだから。




