《第437話》『憎 と言 獣に、 を食 荒らさ てしま たのだか 』
「道摩――……道摩法師」
時空の裂け目で戦い続け、どれほどの時が経っただろうか?
少なくとも、一日中と言うことは無いハズだ。しかし、数十分、あるいは、数時間。ずっと力と力をぶつけ合っていた。
『ぜ、い゛、め゛ぇぇぇぇぇええええええええええ――ッッ』
「フン、もはや残留思念と呼ぶことさえ疑問を覚える程じゃな」
「わかっている」
しかし、その分、道摩はもはやほとんどその力を残してはいなかった。
宙に浮く、破片のようなモノがかろうじて顔らしきものを形成しているが、それすらももはや、粘土をこねて適当に形を繕ったもの程度でしかない。
「あの頃は、優しい時間が流れていたな。人生の長さを思えば、それ程多くの時を刻んだわけではなかったが」
『オ、ァ、オ゛オ゛オ゛、オ゛――……』
出来損ないの刃を形成した破片が、力のない勢いで飛来してくる。
――妾は、それを片手で握り潰し、焼き尽くす。
「――すまない」
『ゼ、ぃ、め゛ェェェえええ、え゛え゛――……っ』
もはや、己の怨む「安倍晴明」がどんな奴だったか。そもそも、それがあの時何をしたのか。それすらも、忘れてしまっているのだろう。
それでも、戦意を失わない。憎悪と憤怒で、その魂を満たし続ける。
心臓が痛む。これは物理的な傷ではない。
その恨みは。怒りは。妾と過ごした日々――いや、道摩法師自身の人生そのものを、黒く塗りつぶし尽くしてしまうほどだと言うのか。
――妾は、周囲に散った破片と思念、その全てを鬼火で覆う。
「すまない。妾には――無力で無知な妾には、他に休ませてやる方法が思いつかん」
『ぃ゛、ぎ、せ゛、 、 、 メ ェ』
せめて。――せめて、その憎しみに少しでも割りこめるくらいの思い出があれば。
「…………………………――――――――――――さらばだ」
『あ゛、び、 、、、 、 。 、。 く゛ 、、 、れ゛、』
旧き思い出に、共に思いを馳せられたかもしれない。




