《第433話》『否、そもそも初めから、我の周囲には誰もいなかったのかもしれぬ』
「わわわ、我、我、我はははははははははは――……?」
「な、なんじゃ、どうしたというんじゃあやつは!?」
妾の問い掛けから数瞬して、道摩の妾を模した姿が痙攣を始める。ブルブル、ブルブルと、まるでバイブレーションコントローラーのようなその様は、ハッキリ言って気色悪い。
「――自我が崩壊するまで、記憶に穴が空いているからだろう。もはや、他の記憶から補完することも、人格によって思い返せぬ混乱を押さえることもできない」
「どういうことじゃ?」
「道摩は鬼と成った直後の妾を救うために、ある術を己にかけたのだ。自身を不滅とする、不老不死の術をな」
『いたいいいい、いいい、あたたたたま、がががががが、がァ――ッッ!!』
道摩の思念を宿す人型が、熱された鉄のごとくどろりと溶け始める。表面はボコボコと泡立ち、全身から邪気を漲らせながら。
「だが、それは未完成で、本人も元々使うつもりのないものだった。しかし、それを使い、生きねばならぬ状況へと追い込まれたのだ。他ならぬ、妾ごときを助けるためにな」
『い、い、あ、い、あ――――…………?』
「しかし、それは所詮未完成。ここからは推測だが、半死半生のまま、その肉体は老化し朽ちていったのだろう。思念が、精神が、死によって分解されつつ、それでも形を留めようと失敗しながら」
結果、どうなったか。
「出来上がったのは、穴だらけとなった魂と、崩壊寸前の人形だ。そして増悪のまま半分悪霊と化し、原型を保ちきれていなかった肉体は鬼と化す」
「――もっと、分かりやすく行ってくれぬかえ?」
「アレはかつて、道摩法師と呼ばれていた男の残滓だ」
そう、残滓。ただの残り香。あんなものは、もはやあの男ではない。決して、あの男などではないのだ。
『我が、ガガが、ガがが、ががァあああアアああ――――…………?』
「そんなこと、よくわかったのう」
「今、奴の力を構成しているその一部は、元は妾から切り離された邪気なのだぞ? それに触れると、嫌が応にも、苦痛が通じてくるのだ」
ぐちゃぐちゃと、道摩の肉体が弾けるさまが、収まる。
『オマ絵たちが、安倍セイ明、科?』




