《第430話》『残るモノは』
「く、ぐ、あ、な、なんて、ヤツだ――っ」
「まった、く、狂気鬼以上にふざけたヤツ、だ――ッ」
道摩の破片が、身体の奥へとギリギリ、ギリギリ食い込んでゆく。猛禽類にわしづかみにされているような気分だ。
「だが、妾がこの程度、で――!」
「我が、ただ攻撃するためだけに我が身を分けたと思ったのか?」
「何――? ……ッ!?」
目の前に、一瞬砂嵐が走った。
風に乗った綿毛が、地面に種を運ぶように。その種から芽が出て、根が伸びるように。枝分かれした触手が、妾の身体に、そしておそらく、狐の身体にも根差してゆく。
――妾の頭をかたどった首が、妾達の前に浮遊する。
「これで汝らは我のモノだ。このまま侵蝕し、白面金毛九尾の狐の魂の破片ごと、汝らをこの身に取り込んでくれよう」
空虚な魂が、がらんどうの声――音を発する。
今の道摩が、妾のものだった邪気を取り込んでいるからか、奴の魂をほど近くに感じる。
それが告げる、今の道摩法師。穴だらけのスポンジのようになってしまった存在。形成しているのは、もはや暴走する増悪のみ。
何故、道摩法師はここまで朽ち果ててしまったのか。
何故、かつての大きな存在はここまで空虚な存在となってしまったのか。
何故、我が盟友がこのような目に会わねばならないのか。
――これでは、人間のように口をきいているだけで、脳ミソだけだった時とまるで同じではないか。
「……――決着をつけよう」
「――何? ッ!?」
全身に、熱の痛みを感じる。魂すらも、引き裂かれるのではとも思えるほどの激痛。
自身の炎を、根ざしている道摩法師の破片へと展開。肉の隙間と言う隙間を焼く鬼火。
「今一度問う。お前は何故、安倍晴明を憎悪する」




