《第四十二話》『物理幻術』
穹島先生がアジトとしているのは、人里を少し離れた位置にある山奥の、古びた屋敷だった。
あちこちが崩れ、そして蜘蛛の巣が張り放題、人が関与しなくなって久しいであろうその建物は、一見、誰かが潜んでいるようにも見えない。それだけひどく劣化した建物であり、ある意味、身を隠すにはうってつけだろう。
「――準備、いい?」
「――うん」
藍妃の、緊張を帯びた声に、同じようにして僕は返事をする。いまだに未熟だと思っている自分の技術がどこまで通じるかは分からないが、信頼する同期が協力を求めてきたのだ。勝算は十二分にあるのだろう。
そうして、僕らは建物に突入した。
ところで、だ。こういう集中した状態でありながら、一番油断する――言い換えれば、一番虚を衝かれる状況、というのをご存知だろうか。
「――っ」
僕たちは建物に侵入した。目の前には、荒れ果てたホールの様子がいっぱいに広がっている。そこにある人型といえば埃を被ったリビングメイルくらいのもので、視界のどこにも、生ける者の気配は感じられない。
その一瞬の安堵に、隙が生まれてしまった。
「《ビッグフット》」
「――ッッ!!?」
天井から相手に想起させる声を聞いてしまったとき、僕らは確かに、「しまった」と思った。




